鼠径ヘルニアの日帰り手術

鼠径ヘルニアの治療には手術が必要となるため、これまでは入院を伴う治療が一般的でした。しかし、医療技術の進歩により、現在では「日帰り手術」による治療が広く普及しています。

ここでは、鼠径ヘルニアに対する日帰り手術の特徴についてご紹介します。

鼠径ヘルニアの日帰り手術について

鼠径ヘルニア(脱腸)は、足の付け根にふくらみが現れる一般的な疾患で、自然に治ることはなく、治療には手術が必要です。近年では、医療技術の進歩により、入院を伴わない「日帰り手術」が少しずつ広まりつつあります。

日帰り手術は、手術当日に帰宅できるため、入院に伴う身体的・精神的な負担を軽減でき、仕事や家庭への影響も最小限に抑えられるのが大きな利点です。費用面でも入院を伴う手術に比べて経済的です。

当院では、体への負担が少なく回復の早い腹腔鏡下手術をほぼ全例に採用し、日帰りでの治療体制を確立しています。専門医による丁寧な診療と万全のサポート体制で、安全・快適な日帰り手術をご提供しています。

日帰り手術のメリット・デメリット

日帰り手術には多くの利点がありますが、事前に理解しておくべき注意点も存在します。以下に主なメリットとデメリットをまとめました。

メリット

  • 入院が不要なため、精神的ストレスが少なく、仕事や家庭への影響を最小限に抑えられる
  • 医療費が入院治療に比べて抑えられ、経済的負担が軽い
  • 腹腔鏡手術であれば、術後の痛みが少なく、回復が早い
  • 早期の社会復帰が可能
  • 入院による院内感染のリスクを回避できる

デメリット

  • 全身麻酔の影響(ふらつき・眠気など)が術後に残る可能性がある
  • 手術当日は車や自転車の運転ができないため、送迎や公共交通機関の利用が必要
  • 帰宅後の体調変化に備えた注意とサポートが必要

当院では、事前の診察と丁寧な術前説明を通じて、患者さんの全身状態や生活環境を十分に考慮し、日帰り手術が安全に行える方を慎重に選定しています。

日帰り手術の安全性

鼠径ヘルニアに対する日帰り手術(外来手術)は、現在では国内外で広く行われており、その安全性は多くの研究により証明されています。

たとえば、イギリスで実施された全国規模の大規模研究では、約41万件の鼠径ヘルニア手術を対象に解析が行われ、日帰り手術を受けた患者は、入院手術と比較して30日以内の再入院率や術後合併症率が有意に低いことが報告されています 1)。また、中国からの研究では、80歳以上の高齢者に対しても腹腔鏡下日帰り手術が安全かつ実施可能であることが示されています 2)。

これらのデータは、日帰り手術が単に時間的に効率のよい治療というだけでなく、科学的根拠に裏付けられた「安全性の高い治療選択肢」であることを示しています。

当院ではこのようなエビデンスをもとに、術前評価・麻酔管理・術後観察まで一貫した体制を構築しています。手術は日本内視鏡外科学会の技術認定医が担当し、麻酔科専門医による全身麻酔のもとで実施。術後も一定時間のモニタリングを行い、安全が確認されたうえでご帰宅いただきます。さらに、帰宅後も万が一に備えた緊急連絡体制を整備し、万全のサポート体制で日帰り手術を提供しています。

参考文献
1) Chana P, et al. Day-case and in-patient elective inguinal hernia repair surgery: outcomes from 413,059 procedures in England. BMJ Open. 2023.
2) Liu Y, et al. The feasibility and safety of laparoscopic inguinal hernia repair as a 24-h day surgery for patients aged 80 years and older. Hernia. 2023.